酩酊瓦師カメラマン山田脩二さんが、その集大成となる「新版『日本村』1960-2020」を刊行

201209新版日本村

201209新版日本村

気を付けよう、暗い夜道と山田脩二「新版『日本村』1960-2020」

伝説の写真集『日本村 1969‐79』から40年、ライフワークとして、「土の匂いのする日本」にこだわり、高度経済成長期に発展していく東京の他、日本各地の村や町、都市他を氏の独特な感性と視点で切り取り続けてきた写真家の山田脩二さんの集大成が平凡社から出版された。

日本最初の超高層ビルとして知られる霞が関ビルは、1965年(昭和40年)3月18日に起工、1967年(昭和42年)4月18日に上棟し、1968年(昭和43年)4月12日にオープンしたが、山田脩二さんは、その建築現場の骨組みに上り、地上36階の屋上から見える東京の風景を切り取った。

この時、どうしてそんな写真が撮れたのか、山田さんに直接伺って動画にしているので、ご覧頂きたい。

「霞が関ビル(1968年竣工)」撮影の話が持ち上がった際、完成後より、一番迫力のある、鉄骨が組み上がった時点で屋上から写真を撮りたい、と冗談半分で話したところ、その撮影が実現した。当時、日本の代表的建築デザイン雑誌だった「SD」(鹿島出版会・2000年12月号で休刊)に掲載され、評判となり、山田さんは、建築カメラマン、都市写真家と呼ばれ、独自の道を歩み出すことになる。

デジタルカメラで撮ったカラー写真は、表紙と巻末の3枚のみで、その以外は、586枚ものモノクロ―ム写真で全て綴られ、日本の高度経済成長期(1955年~1973年)の大都会の蠢きや地方の村での人々の暮らしと東京一極集中で地方が衰退していく兆し、そして、モノクロームの印影が高度成長がもたらした特に負の部分の情景を見事なまでに捉えている。

新宿西口広場の騒乱、人で溢れかえった船橋ヘルスセンターの熱気、観光地化される前の白川郷の風情…、ページを繰る度に走馬灯のように映し出される。

淡路島の自宅の暗室で膨大な量の銀塩フィルムから写真を焼き直して厳選し、編集、デザイン、印刷、製本の手配まで全て自らの手で行ったそうだ。そんな中、山田さんがカワラマンになってから、そうそうたる建築家たちと手掛けた、氏が焼いたカワラを使った建物や作品の写真が一枚も選ばれていないのは、氏一流の美学であり、見識だろう。

デジタル化が進み、今や、銀塩フィルムやそのプリントをまともに扱える印刷所もほとんどなく、ご苦労をされたようだが、旧知の友人の紹介で、旧式の機械と熟練の技術を持っている印刷会社と出会い、印刷、製本まで漕ぎつけたそうで、それまでに使った飲み代?はなんと高級外車2台分!とか…。そして、これまでの色んなご縁もあって、出版元も決まったとのことだ。

販売に苦戦する今の出版業界で、12,000円(税別)は、常識破りかつ、瓦が付録で付いているかのごとく、ずっしりと重く、B4変型判、442ページもあり、この内容でこの装丁なら、むしろ安過ぎるぐらいだ。実際、初版の1,200部だけなら、ほとんど、山田さんの持ち出しになってしまう、と云う。ご参考までに、1979年刊行の『日本村 1969‐79』は、当時、定価6,500円だったが、絶版後の今の中古書籍市場では、30,000円以上から、状態の良いものは10万円以上で取引されているようだ。

ミュージシャンの山下達郎さんがラジオ番組で語っておられたが、1980年代、CDが普及する直前のアナログ時代最高の音質を再現したくても、今や、アナログの機材がこの世から消滅してしまって、物理的に不可能らしく、今後、このような銀塩フィルムの写真集を出版したくてもできなくなる日もそう遠くないだろう。そういう意味でも、貴重な写真集だと云える。

高度成長幕開けの時期に生まれた筆者の世代は、中学校の卒業アルバムに載っていた遠足で訪れた大阪万博他、滅多に目にすることがなくなった光景や記憶が甦ってきて、ノスタルジーを感じるだけでなく、もう二度と出会うことのできない風物、取り戻せない風景が山のようにあることに気付かされ、焦燥感にも駆られて、氏が専務理事を務めてくださっているCOREZO賞の精神にも通じるものを感じた。

自分たちより若い世代の皆さんには、銀塩フィルムの質感を感じてもらいたいし、日本にもこんな時代があったこと、地方の田舎にはこんな暮らしもあったことを知ってもらいたいと願う。

写真集の巻末には、地元、淡路島の景勝地である慶野松原からデジタルカメラで撮影した、2019年大晦日の夕景と2020年元旦の夜明けがカラー写真で掲載されているが、傘寿を記念した終活にひと区切りをつけ、新たに残りの人生を歩み出そうとする山田さんの気持ちを表しているようにも、ひとつの時代が終わっても明けない夜はなく、古き良きものを大切にしながら、新しい時代を切り拓いていって欲しい、と云うメッセージにも受け取れる。

カメラマンでも山田脩二、カワラマンでも山田脩二、どちらも表現者として、職人として、新たな道を切り拓き、一時代を築いてみせた、筆者が最も敬愛する稀代の酩酊師である。

kanzan gallery 特別展示「新版『日本村』1960-2020 写真プリントと印刷」開催

201209カンザン

「新版『日本村』1960-2020」出版を記念して、下記で特別展示が開催されます。

kanzan gallery 特別展示「新版『日本村』1960-2020 写真プリントと印刷」

一般財団法人日本写真アート協会kanzan gallery

アクセス

2020年1211[金-27[日]

[火曜-土曜]12:00-19:30

[日曜]12:00-17:00

月曜定休/入場無料

2020年12月、文責;平野 龍平

 

 

 

 

 

 

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