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COREZOコレゾ 「『上手くなくても、みんなで楽しく歌えばいい』、故人の遺志を受け継ぎ、共有し、「一緒に歌う場」を支え続け、「歌で生きる喜び」に広げる、合唱団 団長」賞

長内 香代子(おさない かよこ)さん/ボニージャックス合唱団 団長

プロフィール
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プロフィール
長内 香代子(おさない かよこ)さん
ボニージャックス合唱団 団長。
2015年、故・西脇久夫(にしわき ひさお)さんの強い想いから発足した「ボニージャックス合唱団 花みずき」の立ち上げ時から関わり、団長として合唱団を支え続けてきた。
現在は、団長として団員たちをまとめながら、西脇さんが残そうとした「みんなで一緒に歌う場」を受け継ぎ、その活動を続けている。
プロローグ
童謡歌手の大庭照子(おおば てるこ)さんから、ボニージャックスが伝えていた合唱の楽しさを受け継いで活動してる団体があると、「ボニージャックス合唱団」を紹介された。
取材当日、東京都内の貸会議室には、「結成10周年記念コンサート」を控えた練習前にも関わらず、ボニージャックス合唱団の幹部の皆さんが勢揃いしてくださった。
団長の長内 香代子(おさない かよこ)さん。
音楽担当の音楽講師 吉岡 久恵(よしおか ひさえ)さん。
企画担当の有馬 映也(ありま てるや)さん。
幹事で弁護士の中城 剛志(なかじょう つよし)さん。
そして、指導・指揮を務める玉田 元康(たまだ もとやす)さん。
なんと弁護士先生の名刺をいただいたので、こちらから「今日来るのが、詐欺師とペテン師と云うことをご存知でしたか?」と尋ねると、中城さんはすかさず、「過去15年くらい、詐欺師とペテン師に騙された高齢者を救済してきましたから」と切り返し、一同が笑った。
それぞれが自然に役割を持ち、この活動を支えている空気が伝わってくる。
この合唱団は、単に歌を歌う団体ではなく、「人が楽しく集まり続ける場」そのものであるように感じた。
ボニージャックス合唱団

1万人コンサート
男声コーラスグループ、ボニージャックのオリジナルメンバーで、グループの音楽面を主に担当していた、故・西脇 久夫(にしわき ひさお)さんは、長年、「みんなで一緒に歌う場」をつくり続けてきた人だった。
その象徴とも言えるのが、国技館や武道館で行われた「1万人コンサート」だ。
かねてより西脇さんは、ベートーヴェンの「第九」のように、大勢の人が一緒に歌い継ぐことのできる、日本独自の大規模合唱作品を作りたいと構想していたという。そして、その類稀な行動力と交渉力で、東京電力のスポンサードを得て、5000人の合唱団、2つのオーケストラ、さらに5000人の観客を集めるという大規模企画を実現した。
また、その企画に関連したコンサートを全国各地で行う際には、必ず地元合唱団と一緒に歌うコーナーを設けていた。事前に譜面を送り、地元で練習してもらい、本番前に一度合わせてステージで一緒に歌う。そうした形で、全国の合唱団との交流を続けていたのである。
西脇さんにとって、「みんなで一緒に歌うこと」そのものが、大きなテーマだった。しかし、東日本大震災以降、スポンサー不在となり、大規模イベントの開催は難しくなった。 それでも西脇さんの中には、「上手い下手ではなく、もっと多くの人に、一緒に歌う楽しさを知ってほしい」という想いが残り続けていた。
「ボニージャックス合唱団」 花みずき
故・西脇 さんは、長年、「みんなで一緒に楽しく歌う場」をつくりたいと願い続けていた人だった。
現在、合唱団の音楽担当を務める吉岡 久恵(よしおか ひさえ)さんも、西脇さんからかなり以前から声をかけられていたお一人で、「もう20何年、もう30年ぐらい前にね、合唱団作りたいんだけどやってくれないっていう話を私受けてたんですね」と、振り返る。 当時、吉岡さんは、すでに複数の合唱団を指導しており、「今は、新しい合唱団はちょっと難しい」と断っていたという。
それでも西脇さんは、その思いを持ち続けていた。背景には、前述の国技館や武道館で開催してきた「1万人コンサート」があり、西脇さんは、大勢の人が一緒に歌う、その楽しさや高揚感を誰よりも知っていたのだろう。
そして2015年、歌声喫茶「ともしび」に集まる人たちへ、西脇さんは声をかけた。「上手くなくてもいい。ただ楽しく歌えばいい」最初は、そんな呼びかけだったという。
長内 香代子(おさない かよこ)さんも、歌声喫茶「ともしび」に通っていた一人だった。ある日、西脇さんから、「今日はここでもう合唱団を作りましょう」と言われた。そして突然、「団長は長内さん、あなたにしましょう」と声をかけられたという。
「えっ!どうするんですか?」長内さんが戸惑う中、西脇さんは、「とにかく作りましょう」と話を進めていったそうだ。
翌日には事務所に集まり、どういう合唱団にするのか、どんな名前にするのかを話し合った。 当初の団名は、「ボニージャックス合唱団 」花みずき に決まった。「花みずき」は、長内さん自身が以前関わっていた合唱グループの名前でもあった。
当時集まった人たちは、必ずしも合唱経験者ばかりではなかったが、「歌が好き」という気持ちだけで、人が少しずつ集まっていった。 西脇さんは、「譜面が読めない人が多いから大変だよ」と笑いながら話し、吉岡さんも、「その通り、合唱団の経験がある人が半分ぐらい。譜面が読めない人も多かったですね」と振り返る。
それでも、“うまさ”より、“みんなで歌うこと”を大事にしたかったのだろう。そうして誕生したのが、「ボニージャックス合唱団 」花みずきだった。
その後、西脇さんは練習へ顔を出しながら、団員たちへ“歌う楽しさ”を伝え続けていった。「上手くなくてもいい」そう言いながらも、少しずつ人が増え、合唱団らしい形ができていった。
2021年8月、西脇さんが他界し、同年11月からは、玉田 元康(たまだ もとやす)さんが指導・指揮を引き継いだ。 西脇さんがつくろうとしていた、「みんなで楽しく歌う場」は、形を変えながら、今も歌声の中に受け継がれている。
団員たちが支える合唱団
現在のボニージャックス合唱団は、長内さん一人で運営されているわけではない。
音楽面を支えるのが、音楽講師の吉岡さんである。選曲、楽譜準備、練習補助…。玉田さんの指導を支えながら、合唱団の“音”を整えている。
企画担当の有馬 映也(ありま てるや)さんは、「世の中には高齢者の合唱団はたくさんある。でも、お付き合いだけではなく、自分たちらしい活動をしたい」と語り、介護施設への訪問演奏や、地域との交流など、“歌を届ける活動”にも力を入れている。
また、幹事を務める弁護士・中城 剛志(なかじょう つよし)さんも、西脇さんと長年交流があった一人だった。新橋にあった声楽ライブの店「アルテリーベ」で知り合い、互いに携帯電話で「今日来れる?」と連絡を取り合う関係が、亡くなる直前まで続いていたという。
そんな中、西脇さんから、「合唱団を作るから来い」と声をかけられ、合唱団へ関わるようになった。現在は、活動資金面を含め、会計・経理面から合唱団の運営を担う。
10周年コンサートに向けても、それぞれが自らの役割を持ちながら、この活動を守り続けている。 “文化活動は、想いだけでは続かない”その現実を受け止め、支え続ける人たちがいるからこそ、この合唱団は10年続いてきたのである。
「鑑賞に耐える合唱団」へ
発足当初、合唱団は、「上手くなくてもいい。ただ楽しく歌えばいい」という思いから始まった。しかし活動を続ける中で、団員たちにも「少しでも上手くなりたい」という気持ちが芽生えてきた。
玉田さんは、「ここまで来ると、しっかり“鑑賞に耐える合唱団”に育てたい」と語っている。
単なる“趣味の集まり”ではなく、聴いてくださる人に、「素晴らしかった」「また聴きたい」と喜んでもらえるような合唱団に。 観客の皆さんからの嬉しい反応こそが、歌う側の励みになり、「もっといい歌を届けたい」という思いに変わっていく。
合唱団は、そんな楽しさの循環を重ねながら、少しずつ歩みを進めていくのだろう。
10周年記念コンサート

本年(2026年)6月24日、ボニージャックス合唱団は、品川区立総合区民会館「きゅりあん」で、1年遅れとなる「結成10周年記念コンサート」を開催する。
出演は、玉田元康さん率いる新体制のボニージャックスをはじめ、童謡歌手の大庭照子(おおば てるこ)さん、ロシア民謡歌手のエカテリーナさんら。 後援には東京都教育委員会、協力にはNPO法人日本国際童謡館の名も並ぶ。
チラシに掲げられていたのは、「歌でみんなに生きる喜びを参加者と共に交流をはかる」という言葉だった。
“鑑賞するコンサート”というより、“一緒に歌を楽しむ場”。 その空気は、10年前、西脇さんが「上手くなくてもいい。ただ一緒に楽しく歌えばいい」と声をかけて始まった頃から、今も変わっていないのかもしれない。
一方で、現在の合唱団は、玉田さんが「鑑賞に耐える合唱団に育てたい」と語るまでに成長している。 “人が集まり、歌い、交流し、また次も来たくなる” そんな場をつくる活動を10年かけて育ててきたのだろう。
まとめ
単に“歌う団体”ではなく、「みんなで一緒に楽しく歌う場」を残そうとした西脇さんの遺志を受け継ぎ、その活動は今も続いている。活動に参加する人、活動を支える人…、関わる全ての皆さんが楽しくないと続かない。
COREZO賞は、「コレゾ」、「ホンモノ」と呼べる、ものづくりや活動を担っておられる個人を表彰する賞である。
今回のボニージャックス合唱団は、参加しておられる団員はもちろんのこと、長内さんをはじめ、音楽、指導、指揮、企画、会計、運営など、多くの人たちが自らの役割を担うことで続いている活動だ。
その中で、長内さんは団長として合唱団をまとめ、西脇さんの遺志を受け継ぎ、「みんなで一緒に楽しく歌う場」を守り続けてきた。 そして現在は、玉田さんの指導のもと、「鑑賞に耐える合唱団」へとその歩みを進め、歌う側も、聴く側も、「歌で生きる喜び」を感じられる活動へと成長している。
今回は、その活動を代表して、団長の長内 香代子(おさない かよこ)さんに受賞していただくことにした。
今後も「みんなで一緒に楽しく歌う場」として、その活動を続けていっていただきたい。
COREZOコレゾ「『上手くなくてもいい、みんなで楽しく歌えばいい』、故人の遺志を受け継ぎ、共有し、「一緒に歌う場」を支え続け、「歌で生きる喜び」に広げる、合唱団 団長」である。
取材;2026年4月
初稿;2026年5月

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