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COREZOコレゾ 「チーズプロフェッショナルの資格を取得し、地元、和歌山産食材を加えて風味付けしたオリジナルチーズづくりを通じて、和歌山の食文化とチーズの楽しみ方を伝える、日本で唯一のチーズ洗練士」 賞
宮本 喜臣(みやもと よしとみ)さん/チーズ専門店 コパン・ドゥ・フロマージュ オーナー
プロフィール
和歌山県紀の川市桃山町
Copain de Fromage コパン・ドゥ・フロマージュ 店主
2008年和歌山県初のチーズプロフェッショナルの資格を取得。
2013年チーズ普及活動の功績が認められて、フランスチーズ鑑評騎士「シュヴァリエ・デュ・タストフロマージュ」の称号を授与される。
2014年イタリアのスローフードの見本市「サローネ・デル・グースト」でオリジナルチーズを販売。11月25日、地元和歌山県紀の川市にて、ナチュラルチーズ専門店を開業する。
2016年和歌山の湯浅醤油を使った今までにないチーズ「MOROMI formaggio」(モロミ・フォルマッジョ)の開発をイタリアのチーズ工房でスタートし、2017年年末に発表。
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チーズ専門店 コパン・ドゥ・フロマージュ
和歌山の特産品である湯浅醤油や金山寺味噌、肉桂、ぶどう山椒、金柑、紀州備長炭などを積極的に使ってチーズに新たな風味づけをした和歌山「ならでは」のオリジナルチーズを手掛け、県内の方には、ナチュラルチーズに親しみをもってもらい、県外や海外には、オリジナルチーズを通して和歌山の食文化を発信していきたい、と和歌山県紀の川市桃山町でチーズ専門店「コパン・ドゥ・フロマージュ」を経営しておられる宮本 喜臣(みやもと よしとみ)さんを季楽里龍神の小川さださんからご紹介いただき、店舗に訪問した。
ナチュラルチーズ
チーズには、ナチュラルチーズとプロセスチーズがあり、その違いは、製造方法と熟成の有無。ナチュラルチーズは、生乳を乳酸菌や凝乳酵素で凝固させ、熟成させたもので、風味や香りが時間とともに変化するのが特徴。一方、プロセスチーズは、ナチュラルチーズを加熱して乳化剤等で溶かし、再度成形したもので、熟成は止まり、風味が安定している。
チーズプロフェッショナル
宮本さんは、元々、業務用の飲料をつくっている食品会社に勤め、機械のメンテナンス等の業務に従事しておられたが、ワイン好きだったことからワインには欠かせないチーズに興味を持ち、和歌山にはチーズを扱っているところが少なかったので、大阪や神戸他の専門店に出掛け、和歌山では販売していない、いろんなチーズとの出会いを重ねるうちにそのおもしろさにハマり、チーズのことをもっと深く知りたい、と勉強を始められた。
2006年、「チーズプロフェッショナル」を目指し、試験を受けたが、その年から何の前触れもなく、突然、そのチーズの産出国の言語(フランス産はフランス語、イタリア産はイタリア語)で記述する形式に変わり、チーズの品名等をカタカナで覚えていた宮本さんには言語のハードルは高く、産出国の言語も勉強して、2008年、チーズプロフェッショナル協会の資格を和歌山県民で初めて取得された。
チーズプロフェッショナルとは、「チーズプロフェッショナル協会(C.P.A.)」が認定する資格で、チーズの基礎知識、製法、種類、味わい、保存方法、提供方法など、幅広い専門知識と技術を習得したことを証明するもので、チーズの伝え手として、チーズの普及活動や専門的な知識を活かした情報提供を行う役割を担っている。
チーズプロフェッショナルになるためには、チーズプロフェッショナル協会が主催する「チーズプロフェッショナル資格認定試験」に合格する必要があり、一次試験(筆記)と二次試験(実技、テイスティング)で構成され、合格すると「チーズプロフェッショナル」の称号が与えられ、取得者は、お客様にチーズの魅力を伝え、最適なチーズの提案や、チーズに合うワインや料理の提案など、専門的なサービスを提供していて、チーズ版のソムリエとも云える。
宮本さんの生まれ故郷の和歌山県は、日本国内でチーズ普及率ワースト1(2007年総務省統計)だったことから、もっとチーズの魅力を伝えて、和歌山県にチーズを普及させるためには、店舗が必要だと考えたが、元々、県民にはチーズを食べる習慣がないので、他府県から高速道路を使ってでも購入に来ていただけるようなオンリーワンの商品が必要だったので、会社勤めを続けながら、商品開発と開業準備を進められた。
チーズ洗練士
チーズを通して和歌山を発信したいと云う想いもあり、出来上がったチーズに海の幸・山の幸に恵まれる和歌山産食材を加えて風味付けして、オリジナルのチーズがつくれないか、試行錯誤を繰り返し、「チーズ洗練士」の本場であるイタリアにも出向かれた。
イタリアでは、一度完成されたナチュラルチーズに様々な食材を組み合わせて風味を加え、新しいチーズを生み出す職人のことを「チーズ洗練士」と呼び、北イタリアが発祥の地で、単に熟成させるだけでなく、チーズの個性を引き出して、付加価値を高める役割を担う。宮本さんは、日本でただ一人、その「チーズ洗練士」として活動しておられるそうだ。
「コパン・ドゥ・フロマージュ」オープン
2014年、オリジナルチーズのラインナップも揃い、満を持して、和歌山県内初のチーズ専門店「コパン・ドゥ・フロマージュ」(フランス語で「チーズの仲間」の意)をオープン。紀の川市桃山町の閑静な住宅街にあるのは、固定費を少なくするために自宅兼店舗のカタチを選び、設計、建築段階でチーズの保管に重要な本格的な保管庫も準備した。
オープン当初からオンリーワンのオリジナリティ溢れる商品のクオリティの高さ、おいしさが注目を集めて、評判は口コミで広がり、メディアの取材も殺到して、今では、公共交通機関の便が良いとは云えない場所に店舗があるものの、近隣はもちろん、他府県や海外からのお客様、取材当日には、京都の有名レストランのオーナーシェフも来店されていて、食のプロからも支持され、信頼も厚いと云う。
Copain オリジナルチーズ
季節によって異なるが、コパンオリジナルチーズに加え、本場ヨーロッパのナチュラルチーズも合わせて、25~30種類の様々なテイストのチーズが店頭に並ぶ。取材当日、完売してしまったオリジナルチーズも多かったが、代表的なものをいくつかご紹介いただいた。
熟成チーズの金山寺みそ
フランスを代表するハードチーズ「コンテ」の12ヵ月熟成を、和歌山 湯浅の金山寺味噌で和えて、フリーズドライのぶどう山椒をトッピング、発酵食品同士の旨味が重なり、日本酒やビール、焼酎などに良く合う味わい。
きんかんアラモード
日本酒醸造蔵の方から日本酒を若い女性にももっと飲んでいただきたい、と云う想いを伺い、日本酒を楽しむ専用チーズとして開発した。デンマーク産の上質なクリームチーズ“BUKO”を、和歌山県産きんかん、みかんのハチミツ、梅酒、お味噌などを合わせた特製ソースに漬けている。日本酒と合わせる時は、金柑は同じ柑橘系のぶどう山椒との相性も良いので、 粉山椒を添えると冷酒にぴったり。また、デザートとしても、白ワインやスパークリングワインに合わせても良しの一番人気のCopainオリジナルチーズ。
フルム・ダンベール サンドレ
フルム・ダンベールは、ミネラルたっぷりの牧草を食べた牛のミルクから作られた旨味たっぷりのフランスでオーソドックスなブルーチーズで、外皮の部分にクセがあるので、外皮に消臭効果のある「紀州備長炭」をまとわせて、少し水分を抜いて味を凝縮させ、完熟したぶどう山椒「赤山椒」のパウダーで風味付けをした。外皮の部分はスパイシーな味わいを楽しめ、日本酒や赤ワインに良く合う、Copainオリジナル青カビチーズ。
カマンベール 燻製湯浅しょうゆ風味
マイルドな味わいのフランス産カマンベールを和歌山 湯浅醤油のもろみで一晩風味づけし、リンゴのチップで燻製。お醤油の香ばしい風味と燻製の香りが、チーズのミルキーな味わいに深みを出していて、ビールや日本酒に良く合う。
パルミジャーノ燻製 赤山椒風味
24ヵ月熟成の旨味たっぷりのパルミジャーノレジャーノを、燻製してから「青山椒」は痺れるようなスパイシー感が強いため、少しマイルドな完熟した紀州ぶどう山椒「赤山椒」で風味付けをした。熟成されたチーズの旨味と赤山椒のスパイス感、燻製の風味がバランス良く、そのままで上質なおつまみになる。お料理のアクセントにもおすすめで、ビールや日本酒、スパイシーな赤ワインにもよく合う。
ラングル 酒粕仕上げ
フランス、シャンパーニュ地方のウォッシュチーズ「ラングル」は、チーズの表面を塩水や酒で洗いながら熟成させるタイプのチーズで、表面を洗うことで、納豆菌の一種であるリネンス菌などの活動を促し、納豆にも似た、独特の風味や香りが生まれるのだが、それが苦手な方に向けて、和歌山の上質な酒粕で風味付けすることで、クセを少し穏やかにして旨味を引き出した。濃厚でねっとりとしたコクのある風味は、ウニに例えられることもあり、日本酒や重めの赤ワインにも良く合う。
実際に2種類のオリジナルチーズをいただいたが、どちらも一言で云うと、今までに食べたことがない「おいしさ」で、「熟成チーズの金山寺みそ」は、チーズと味噌がこんなに合うのかと云う驚きも伴ってビールや日本酒に合いそうな味わい、「きんかんアラモード」は、上品なデザートそのもの。元々のベースとなったチーズの味は知らないが、知らなくても良いほど、チーズを使った別の食べ物、新たな料理とも感じるような仕上がりだ。
ソムリエの中には、そのワインに合った料理までご自身の手で調理される方もいらっしゃるので、ある意味、宮本さんは、ご自身の経験、味覚、感性他を総動員して、チーズに合わせる新たな素材を見つけ出し、工夫を凝らして、素材同士の相性と合わせた時のハーモニー、合わせる飲み物とのマリアージュを見極めながら、おいしさと食べる楽しさを追求しておられ、チーズという素材に新たな命を吹き込むプロの料理人とも云えるかもしれない。
チーズの楽しみ方
「コパン・ドゥ・フロマージュ」の店舗がある、紀の川市桃山町は、その質の高さ、味の良さから全国的に名高い「あら川の桃」の産地で、桃のシーズンには、桃と合わせるチーズを買い求められるお客様が多く、桃の品種によって風味が異なるので、この品種にはこのチーズと云う伝え方をしてこられて、桃を買いに来た後、チーズも買いに寄ってくださるお客様が増えたそうだが、どんな味わいになるのか、試してみたいものだ。
おいしいだけでなく、おいしいの先の心に残る楽しいと云う気持ちが生まれないとリピーターにはなってもらえないので、これとこれとこれを組み合わせたら、こんなおいしさ、楽しさが生まれると云うことを常に考えて商品づくりをし、お客様に提案している。ケーキの食べ歩きをするのは、ケーキは計算式の塊で、最初に舌の上に何が載るか、どんな順番で食べるか、上から食べるのと下から食べるのとでは感じる味が変わるので、足されたり、合わされたりしている素材の風味や香り、食感他も確かめながら、新たなオリジナルチーズづくりに活かせるヒントやインスピレーションをもらっている。
普段の食生活の中にチーズを取り入れる楽しさを体験して欲しい。炊き立てのご飯にブルーチーズを載せて食べるとおいしく、また、コーヒーとチーズも相性が良く、豆の品種、浅煎りや深煎り等の焙煎の具合、ドリップの方法によってもチーズの種類、切り方の相性があるが、紙ドリップで抽出したコーヒーには、コンテと云うフランスで最も消費されているチーズをバターナイフで薄くこそいで口に含んで飲んでもらえば、元のミルクの風味がパッと口に広がり、コーヒーのおいしさも倍増するので是非、試して欲しい。
チーズに携わってきた自分が体験した中で、これは良かった、感動した、と云うチーズの楽しみ方をこれからも伝えていきたい、と宮本さん。
取材中、何組もの来客があったが、一般の消費者にもプロの料理人さんにも、好みのチーズを見つけられるよう、そのチーズの特徴や食べ方、合う料理や飲み物、そしてチーズの楽しみ方を丁寧に説明しておられる姿がとても印象に残った。
COREZOコレゾ 「チーズプロフェッショナルの資格を取得し、地元、和歌山産食材を加えて風味付けしたオリジナルチーズづくりを通じて、和歌山の食文化とチーズの楽しみ方を伝える、日本で唯一のチーズ洗練士」である。
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