
目次
COREZOコレゾ 「一時途絶えた伝統食『柚べし』づくりを復活し、母親が続けてきた全然おきない地域おこしを自分こそがおこしてみせると宣言した、これからどうおこすのか楽しみな地域づくりの担い手」 賞
小川 直(おがわ なお)さん/ 龍神はーと/ごまさんスカイタワー 店長
プロフィール
和歌山県田辺市龍神村
龍神はーと/ごまさんスカイタワー 店長
COREZOコレゾチャンネル
龍神はーと
小川 直(おがわ なお)さんは、大阪で就職して働いておられたが、お母様の小川さださんが龍神村で創業された「龍神はーと」を引き継ぐために和歌山県田辺市に戻ってこられた。
和歌山県田辺市龍神村
龍神村は、和歌山県の中央部に位置し、県庁所在地の和歌山市から93km、クルマで約80分の距離にあって、「秘境」とも云える⼭深い温泉地。2005年、合併により、田辺市龍神村となった。総面積は、25,513haで、田辺市全体の25%、和歌山県全体の5.5%と広大だが、その95%を林野が占め、古くから代表的な産業だった林業が衰退した後は、人口の減少が続き、2024年には、3,000人弱となっている。龍神温泉は、約1300年の歴史を持ち、中性~弱アルカリ性、無色透明の炭酸水素塩泉で、「肌を白くする」という効能があり、川中温泉(群馬)、湯の川温泉(島根)と共に、日本三大美人の湯として知られ、自然豊かで、山と川の幸に恵まれた温泉保養地として栄えてきた。
この龍神村で育った若者たちの多くが学校卒業後は、仕事のある都市部へと出ていくこの地域で、「⿓神はーと」を創業した⼩川さださんも10代の頃、何もない村がイヤで⾼校卒業後、⼤阪へ進学し、就職。その後、結婚・出産を機に家業を継ぐためUターンしたが、さらに人口の減少が進み、夏休み等にも、都会に出て行った若者は帰省せずに、他地域に旅行に出かけるという有様で、大阪に出た頃と変わらない山ばかりの不便な故郷に魅力を感じる事はなかった。
移住者の⽅たちとの交流が転機に
そんな龍神村にもIターンで村外から移住してきた方々がおられ、交流する内に、山の恵み、川や水の美しさ、豊富な農作物等々、素晴らしい「宝物」がいっぱいあることに魅力を感じて、移住して来られたのを知った。
改めて、外からの目線で地域を見ると、それまで当たり前でつまらないと感じていたことが、かけがえのない魅力であることに気付き、若い女性が魅力を感じて暮らしたくなる村にすれば、若い男性の住民も増え、やがて、人口も増えるのではないか、と活動を開始した。
「⿓神はーと」の立ち上げ
2002年、小川さださんは、そんな⿓神村の魅⼒を⾃分たちでも守り伝えようと「村を愛する⼥性たちが畑から⾷卓へ、⼼と愛情をこめて⿓神の宝物をお届けします」をテーマに「⿓神はーと」を⽴ち上げた。
立ち上げ当初、オリジナル商品づくりと共に、つくった商品を村内のイベントや路上での販売から始めたところ、観光客や村外の⽅々からは⼤きな反響をもらうことに成功したが、この地域内での活動を地元の皆さんから理解を得るのに時間を要したこともあった。
それでも決してあきらめず、粘り強く仲間たちと共にこれまで続けられているのは、主婦が作った物が⽬の前で売れ、喜んでもらえることが⼤きな励みとなっているそうだ。
2011年、「道の駅 ⽥辺市⿓神ごまさんスカイタワー」の指定管理を受け、⿓神産品の展⽰販売他の営業を開始した。
「⿓神はーと」商品開発へのこだわり
⿓神産⾷材の活⽤
⾷材の宝庫である和歌⼭県⽥辺市、特に⿓神村で採れる素材や伝統⾷を⼤切にし、商品化して、⿓神産⾷材や伝統⾷の魅⼒を発信している。
あるものを無駄にしない
今まで地域では、価値がないとされていたものや捨てられてきたものを生まれ変わらせて⿓神の宝にしようと、市場には出せないB品になった椎茸をフレークにした「しいたけ節」、これまで邪魔⽊(役に⽴たない⽊材)として扱われてきたクロモジの精油を使った化粧⽔など、「今すでにこの地域にある資源を無駄にしないこと」をモットーとして商品開発に取り組んでいる。
自家製・手づくり
自分の子供に胸を張って食べさせたいほどの安心・安全な食品を目指して製造しているので大量生産はできないが、手づくりならではのやさしさを伝えている。
「龍神はーと」の柚べし
柚べしの歴史
平安時代から鎌倉時代にかけて、保存食・携帯食として用いられたのが始まりとされ、時代とともに変化して、現在では珍味に分類されるものと、和菓子の一種(蒸し菓子や餅菓子など)に分類されるもの、その他のものに分けられる。
龍神村でつくられてきたのは、柚子の実をくりぬき、味噌や米粉、木の実などを詰めて蒸し、乾燥させた保存食の味噌柚べしであり、この昔ながらの味噌柚べしの製法が残っているのは、全国で龍神村の他、木曽天竜川上流域・奈良県十津川村・四国(愛媛県)の4ヶ所だと云われている。
「龍神はーと」の柚べしの作り方
完全無農薬の龍神村の香り高い柚子だけを使用し、龍神の柚子は、実生の柚子(みしょうのゆず=接ぎ木ではなく、種から育った野生の柚子のこと)で香りが高く味も濃いのが特徴。
柚子の実の上部を切り取った後、中身をくり抜いて、この中に天然醸造の味噌に落花生、きな粉、ゴマ、七味などを合わせた物をつめて蒸し、切り取った上部で蓋をして、寒空の中で約半年乾燥させると完成。味噌作りから数えると、1年半の時間と手間暇かけて、ひとつひとつ丁寧に手づくりした量産不可能な伝統の味。
かつては龍神村内でも約60軒でつくらていて、「龍神はーと」でも年間1万個つくっていた時期があり、同じ発酵食でチーズに良く合うとフランスから引き合いがあって、輸出していたこともあったそうだが、今では「龍神はーと」1軒だけとなり、数量も6〜700個ぐらいしかつくれず、貴重な逸品となっている。
龍神はーとの柚べしは、こんな素晴らしい景色が見渡せる環境で作られている。
柚べしの食べ方
そのまま切り分けて、酒の肴やご飯のお供に、龍神村では同じく伝統食の茶粥(おかいさん)とも一緒によく食べられているそうだ。他にも現代的なアレンジとして、柚子の香りや甘さがより感じられるので、クリームチーズと合わせてデザート代わりに、クラッカーと合わせてオードブルにするのもオススメとのこと。
一旦、途絶えた龍神「柚べし」の復活
直さんが戻られてから、母親の小川さださんからは、郷里の伝統食だから無くしたらあかん、少量でもつくり続けないと地域の食文化が途絶える、と云われ続けてきた。しかし、柚べしは、手間がかかり、祖父母も高齢となってつくれなくなって、直さん自身は、子供の頃からつくるのは見ていたが自分でつくれる訳でもなく、当たり前のように食卓にあって、子供の味覚にはあまりおいしいと思わなかったので、なかなかつくる気にはなれなかった。
また、直さんが店長を務めるごまさんスカイタワーの最繁忙期が紅葉の時期で、柚子の収穫時期と柚べしを仕込時期が重なるため、直さんの中では、「龍神はーと」での柚べしづくりを止める条件が揃い、コロナ禍もあって、丁度いいタイミングだと、一旦、柚べしづくりが途絶えた。
龍神のお土産といえば、柚べしだったのに、一時途絶えたので、周りからも失くしたらアカンと云われ続けて、自分でも悔しいと気持ちが強くなり、母親から手解きを受けて、3年前から柚べしづくりを再開したら、「待ってました!」「懐かしい!」と喜んでくださるお客様も多く、つくり続ける決心をした。
柚べしづくりをするようになって、味見もするし、一度に多く食べるものではないが、子供の頃と違って、普通においしいと思うようになった。地域の食文化を守ることができて良かった、と直さん。ただ、ごまさんスカイタワーの最繁忙期が終わる11月の終わり頃からしかつくれないので、現状では、つくれる個数には限りがあるということだ。
「龍神はーと」の今後

母親たちが龍神村内のイベントや路上で「龍神はーと」の商品他を販売していたのは、直さんの多感な年頃の時期で、何となく「恥ずかしい」というような感覚でその活動を捉えていたので、見て見ぬ振りをするというか、距離を置いていて、何をやっているかも知らないまま、大阪で就職して、働き始めた。
母が一般財団法人 龍神村開発公社の専務理事に就任し、宿泊施設の季楽里龍神の経営と運営に専念するようになるタイミングで初めて「『龍神はーと』を任せるから、龍神に帰ってきてくれないか」と云われ、その当時の仕事におもしろさもやり甲斐も感じていなかったので、甘い考えで戻ってきたが、お金は出しても運営にはほとんど口を出してこないので、自分で考えて行動するしかなく、年々、仕事はおもしろくなっている。
店長を務めるごまさんスカイタワーは、和歌山で最も高所にある観光施設で、雨風も強く、雪も降るので、既に築40年以上を経過して施設の老朽化が進んでいるのをこれからどうするか課題も多いが、毎日、通っていて、夏場でも風は涼しいし、日々、変わる景色を観ていると、とても良い場所だと思うので、 一人でも多くの方々に訪れて欲しい。
龍神で生まれ育ち、地元に戻って、母親やお世話になっている方々が龍神のために一生懸命動き廻っている姿をカッコ悪いなと思って見ていたが、こうして歳を重ね、その方々との会合に出ることも多くなって、実際にいろんな取り組みを見聞きしていると、龍神村をもっと多くに人たちに知ってもらい、興味を持って訪れてもらいたいと思うようになった。最終目標は、20年以上、全然おきない地域おこしを続けてきた小川さだの息子ではなく、自分が地域をおこして、龍神といえば、「小川直」と云われるようになりたい、と直さん。
20年以上、小川さださんが続けてきた全然おきない地域おこしと「⿓神はーと」の活動は、長男の直さんに引き継がれた。今後、直さんの世代の感覚や価値観、考え方で、「⿓神はーと」の活動を発展させ、どう地域をおこして行かれるか、楽しみに見守りたい。
COREZOコレゾ 「一時途絶えた伝統食『柚べし』づくりを復活し、母親が続けてきた全然おきない地域おこしを自分こそがおこしてみせると宣言した、これからどうおこすのか楽しみな地域づくりの担い手」である。
コメント