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COREZOコレゾ「まちづくりの核は人と、人的交流で未来を描き、行政がしてくれるのを待つことなく、住民主導で取り組みを推進し続ける先進的なまちづくり」賞
佐々木 千代子(ささき ちよこ)さん
プロフィール
鳥取県鳥取市鹿野町
理事長 佐々木 千代子(ささき ちよこ)さん
理事 大石 進(おおいし すすむ)さん
経歴・実績
平成18(2006)年 国土交通省「手づくり郷土賞 地域活動部門」 受賞
平成19(2007)年 地方自治法施工六十周年記念式典にて総務大臣表彰
平成20(2008)年 国土交通省都市景観大賞「美しいまちなみ優秀賞」 受賞
平成22(2010)年 国土交通省大臣表彰「手づくり郷土賞 大賞部門」 受賞
公益財団法人 あしたの日本を創る協会「あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣官房長官賞」 受賞
平成23(2011)年 第7回 鳥取県地域づくり大賞 受賞
平成24(2012)年 「住まいのまちなみコンクール」 住まいのまちなみ賞 受賞
平成25(2013)年 第26回 山陰信販地域文化賞 受賞
地域づくり総務大臣表彰 団体表彰
受賞者のご紹介
同じ鳥取県の「鳴り石の浜プロジェクト」の上田サブリーダーがまちおこしのお手本にしたという、鹿野の皆さんをご紹介下さった。
鹿野町(しかのちょう)は、2004年(平成16年)11月1日に鳥取県東部9市町村(鳥取市、国府町、福部村、河原町、用瀬町、佐治村、気高町、鹿野町、青谷町)の合併で鳥取市鹿野町となった。
JR山陰本線浜村駅より車で約15分、鳥取市街からは車で約30分という位置にあり、面積は52.77平方km。その内80%が山林で、南の鷲峰山などに水源を持つ河内川を中心に、末用川、水谷川、浜村川流域に小平地が開け、水田畑地となっている。
鹿野祭りの似合う街づくり
鳥取市鹿野町には400年の伝統を誇る「鹿野祭り」があり、地域の人々にとって心のよりどころといえるほど、大切に受け継がれてきた祭りで、その祭りに似合う街並み、道づくりを目指し、「鹿野祭りの似合う街づくり」をテーマに、行政、住民、NPOが協力してまちづくりを行なってきたそうだ。
「鹿野祭り」は、戦国領主亀井氏により興されたもので、江戸時代初頭、亀井氏の津和野移封により中断していたが、江戸時代末期になって、町民により再興された。
本祭りは、翌日の明け方まで続き、それぞれの町毎の大きな屋台や神輿が、たくさんの人々であふれかえる鹿野城下町を練り歩く様は華やかで、情緒豊かな日本古来の祭りの良さを今も伝えている、と云う。
鹿野町は、平成6年度から「街なみ整備事業」の検討を開始し、平成7年度には、街なみ整備ガイドラインを策定した。また、平成8年度には、各町内毎に街づくり協定を締結し、「街なみ環境整備事業」を実施、社会資本である道路等の整備が始まった。
平成12年8月には、鳥取県が募集した「鳥取県街なみ整備コンテスト」において、協議会の母体となったグループが「いんしゅう鹿野童里夢(ドリーム)計画」を提案し、最優秀賞を受賞したことがきっかけとなって、それまで各グループ毎に個別に活動していた住民・グループが集まり、平成13年10月に「いんしゅう鹿野まちづくり協議会」を設立し、平成15年12月にNPO法人を取得した。
空家活用「ゆめ本陣」
鳥取県の街なみ整備コンテストで提案した計画を実現するために、まず、空家を改装した拠点を作ろう、ということになり、空家の所有者と交渉して、賃貸契約を結び、平成14(2002)年4月、活動拠点「鹿野ゆめ本陣」(1号館)を整備、開館し、地域コミュニティーの振興、伝統工芸品(藍染め等)の技の伝承・体験、農産加工品の開発を行う場所となった。
現在、ゆめ本陣では幅広い年齢の方たちが、手づくりの作品を出品していて、その作品を楽しみに遠方からも多くの方が訪れ、賑わっており、2階は、窓を開けると城下町が見渡せる、静かで落ち着いた雰囲気のギャラリーとなっていて、展示を通して作者とお客様との交流の場となっているそうだ。
空家活用「夢こみち」
鹿野を訪れる方々からの「ゆっくりと休憩したり、食事をするところがまちの中にあったらいいな」という声に応えて、「鹿野ゆめ本陣」前の空家(築90年の古民家)を改装して、平成16年3月、地元の食材を中心に料理を提供するお食事処「夢こみち」(2号館)として開店した。
現在、町内の女性6人で運営をしていて、鹿野らしいおもてなしをと、特産のすげ笠をお盆に見立て、それに地元の旬の野菜や山菜を中心に12~13種類の料理を小さな器に盛り付けた「すげ笠御膳」がお勧めだとのこと。
当初この物件は、町が買い取って空き家を取り壊して造成し、ポケットパーク(駐車場)にする計画だったが、まちづくり協議会と行政で話し合いを重ね、鹿野町がその土地を購入し、土地にある空き家は、まちづくり協議会が町と賃貸契約を結び、建物を再生、整備した。
いんしゅう鹿野・空古民家再生プロジェクト
城下町地区には、空き家も多くあり、それらは近い将来に解体せざる得ない建物もあるのが現状で、まちづくりの取り組みの効果もあり、訪れる人も増え、住みたい・お店を開きたい、という声も出てきたこともあって、鹿野城下町地区の空き家状況の情報を集め、現況調査を行い、空き家所有者、近隣、関係者に対して、建物の保存や賃貸意向等についてヒアリング調査を実施した。
何よりも地域と子供たちの為に、小さな城下町に住み心地の良さと賑わいをつくり出だすことのできる空家再生の指針と仕組みを構築し、空古民家の所有者との関係を深め、課題の解決をしながら、利用者と住居や工房・お店などへの再生を検討し、売買・貸借・活用の提案を行い、再活用を実現している。
城下町復興「まちなみ演出」
山野草とのれんによる町並み整備
鹿野の古い町並みには、山野草とのれんがとても似合うので、昔使われていた陶器の醤油瓶を活用し、山野草を植え付け軒下に設置している。また、のれん掛け運動を行い、旧城下町一帯の約100軒の民家、商家等の表玄関には、しかの藍工房の皆さんに作製してもらったのれんが掛けられている。
鹿野祭りでは提灯と同様に、様々な模様ののれんがかかり、観光客にもたいへん好評だとのこと。
屋号の残るまち
鹿野には各家々には、職業を意味する「鍛冶屋」、「豆腐屋」、「塩屋」、出身地を表す「北海道屋」、「重高屋」、本家分家を示す「本油屋」、「分井筒屋」の他、倉吉市福庭から鹿野町に引っ越ししたことを示す、「大福屋」のように、家の歴史をそのまま反映した屋号もある。
徐々に忘れかけられている地域の屋号をいつまでも残し、受け継がれていくように、約160軒の家号の入った瓦を焼き、各家庭に配布して、玄関先に設置してもらっている。名字とは違うもう一つの呼び名を復活させ、古くからの歴史が残る町を表現し、また、観光に訪れた方が散策して楽しいまち並みにしたいと願い、落ち着いたまち並みづくりの演出に活かしている。
レトロな民具を使ったメダカのすむまちづくり
平成18年からは、各家庭に眠っている民具を再利用して、まちづくりに役立てようと、町民の方々の協力を得て、火鉢、かめなどを玄関先に置き、めだかを飼う事業を実施した。
鹿野の城下町を散策される観光客に足を止めて心を和ませてもらうとともに、住民のまちづくりに対する意識を高め、その輪を広げる役割も果たしていて、特に高齢の方々には、「声をかけられると嬉しいし、楽しみが出来てうれしい」と評判もよいそうだ。
世界の蓮花がしかので開く「蓮物語」
遺伝子研究のために世界中から集めた190余種のハスを栽培しておられた、鳥取大学農学部の教授が、同校を退官するのを機に、引き続き育ててくれる団体を探しておられたのを受け、まちづくり協議会を中心としたグループで受け入れることになった。
平成20年の春に、大学構内の全てのハスを鹿野まで運び、泥の入れ替えや地下茎の手入れなどをして、鹿野町のハス事業がスタートした。現在では各団体が共同で一括管理し、また、株分け作業をした子株は、鹿野町内の一般家庭が「里親」となって大切に育てている。
鹿野まち普請の作法
平成17年3月、今後の鹿野らしい、景観形成について、共通理解を深め、修景整備の精度向上を図るために、町民アンケート等も行い、まちなみ保存の羅針盤である「鹿野まち普請の作法」を鹿野町総合支所、建築関係者、アドバイザー、コーディネーターと協働で策定した。
鹿野的空家活用によるレジデンス・サポート・プロジェクト
「鳥取力」創造運動支援補助事業として開催された「鹿野まちづくり合宿」で、地域の魅力や資源を地域づくりに活かす事を学んだことから、聞き書きの手法で、地域の文化、歴史、人、暮らし等の掘起しを行い、鹿野の今後の活動に活かしていく事業を進めている。
鹿野町には、廃校になった小学校と幼稚園を劇場に変えて、2006年から演劇活動をしている「鳥の劇場」がある。「鳥の劇場」という名前は、劇団名でもあり場の名前でもあり、劇場がただ演劇を愛好する人だけの場ではなくて、広く地域のみなさんに必要だと思ってもらえる場となることが目標だ、と云う。
演劇創作を中心にすえ、国内・海外の優れた舞台作品の招聘、舞台芸術家との交流、他芸術ジャンルとの交流、教育普及活動などを行い、地域の発展に少しでも貢献したい、という考えのもと、チケットの売上、サポ-タ-の寄付、各種助成金、地元の方の協力などにより活動が支えられているそうだ。
協議会では、街なみや空き家活用の取り組みを進めてきたが、その新たな手法として、別府・尾道・徳島県神山町からゲストを招き、開催したシンポジウム「アートとまちづくりの幸せな関係を探るin鹿野」を通じて、既に「鳥の劇場」が実践していた、「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)」という手法に対する理解を深め、「舞台芸術」、「まちづくり」、「現代アート」等のアーティストの卵を招き、地域の空家を活用して、地域で人を育て、交流する、「鹿野的レジデンス・サポート・プロジェクト」を実施している。
絵画レジデンス
シンポジウム「アートとまちづくりの幸せな関係を探るin鹿野」で交流が深まった尾道から、若きアーティスト3名を鹿野に招き、約1カ月間、空き家に滞在してもらって、製作を行い、尾道と鹿野が協力して、展覧会やワークショップ等を開催した。
まちづくりレジデンス
まちづくりや文化創造を目指す卵たちを受入れ、指導者も招き、「まちづくり合宿」で学んだ聞き書きやまちづくりを共に学びながら実践した。
舞台芸術レジテンス
全国から公募した劇団が鹿野に滞在し、「鳥の劇場」の指導のもと、作品を創作するとともに、より質の高い作品に仕上げ、「鳥取の鳥の劇場で鳥取の観客に作品をみせたい劇団による上演」を実施した。
鹿野におけるまちづくり
鹿野におけるまちづくりの核は人であり、外部の人々を鹿野の人々が迎え、育む事により、人と人との交流を生み、鳥取力により育った若者達が生みだすのが、「レジデンス・サポート・プロジェクト」だそうだ。
外部の人々の目で鹿野の持つ魅力をあらたに発見し、鹿野の人々に伝え、新たな風を吹かせるだろうし、鹿野の人々も気付かなかった地域の魅力や力を再発見し、自らも育つ事になるだろう。
鹿野から育っていった人々は、やがて、県内や全国各地で活動し、各地での交流が深まって、いつか鹿野や鳥取県の力になってくれる、と信じて、「鹿野的空家活用によるレジデンス・サポート・プロジェクト」を続けておられる。
地方にとって、人口の減少は切実な問題
「地方にとっては、人口の減少は切実な問題です。人口減少は、地域力の低下を意味し、少子高齢化が進む地域では、移住者を受け入れてでも人口減少を食い止めなければなりません。同じ鳥取県のある町には、おとなが管理・設定した施設ではなく、雨の日も晴れの日も一年中、毎日、野外で過ごす『森の幼稚園まるたんぼう』と云うのがあります。自然は、ある意味なんでもありで、危険も含んでいるので、そういう、美しくも厳しい環境の中では、こどもたちの体と、幼児期に特に発達するといわれている五感を鍛えることができるし、自然の中には人間以外にも様々な命があるということを感覚として掴んで行けると、その幼稚園を目当てに移住する人も多いそうですよ。その町では、麻の栽培の認可も取って、麻農家をしたいという、移住者も受け入れておられます。」
「実は、その町には、まちおこしで有名な名物町長さんがいて、なんでもトップダウンでガンガンやっておられるのですが、私たちは、合併した鳥取市の中では、少数派になってしまって、行政がしてくれるのを待っていては間に合わないので、私たち住民がやるしかないんですよ。」
荒廃の進む里山の再生と空き家バンクの事業
「今、鹿野では、荒廃の進む里山の再生と空き家バンクの事業に力を入れています。鳥取市からの委託を受けて、空き家の登録、紹介をしているのですが、知らない人には貸したくないという大家さんには、協議会が借りあげて、こちらの条件に合う借り手の方にサブリースをしたり、移住者の受け入れを進めています。子供やその次の世代にこのまちを残すには、結局、私たち住民がやり続けるしかないんです。」と、佐々木理事長と大石理事。
鹿野の町を歩くと、古い城下町の落ち着いた雰囲気がそこかしこに残っているのだが、それこそが、これまで協議会が取り組んでこられた数々の活動の成果なのである。
住んでいる人々が楽しく暮らしていないと訪れた人々が楽しめるはずはなく、まちづくりの核は人であり、人的交流の積み重ねがいつか鹿野や鳥取県の力になってくれる、と交流事業にも注力しておられることには、敬服する。
関西に住んでいながら、今まで訪れたことがなかったが、また訪れたい町になった。鹿野のまちなみの魅力は、そのまま、佐々木さんや大石さんの魅力なのである。
COREZOコレゾ「まちづくりの核は人と、人的交流で未来を描き、行政がしてくれるのを待つことなく、住民主導で取り組みを推進し続ける先進的なまちづくり」である。
文責;平野龍平
2016.04.最終取材
2016.10.初稿
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