上西 和子(うえにし かずこ)さん/社会福祉法人北信福祉会

COREZOコレゾ「こころといのちを大切にする、奉仕こそ地域社会福祉」賞

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上西 和子(うえにし かずこ)さん

プロフィール

福島県福島市

社会福祉法人 北信福祉会 理事長

ジャンル

社会福祉

経歴・実績

1977年 入三機材株式会社 設立

1996年 社会福祉法人 北信福祉会 設立

1997年 ほくしん保育園 ハッピー愛ランド・特別養護老人ホーム 開設

2001年 ほくしん子育て支援センター 開設

2010年 あづま保育園・子育て支援センター 開設

2010年 グループホームやながわ 開設

2012年 ハッピー愛ランドほばら・特別養護老人ホーム 開設

受賞者のご紹介

地域で評判の高い社会福祉事業

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地域で評判の高い社会福祉事業を営んでおられるご夫婦がいらっしゃるという噂を聞き、2012年、福島に伺った。

上西 皓愃(うえにし あきひろ)さんは、大学卒業後、繊維メーカーに勤務し、仕事で欧米や東南アジアにも忙しく飛び回っておられたが、その後退職して、奥様の実家のある福島に移住。義父が機材関係の仕事をしておられた関係で、1997年に機材会社を設立し、企業経営者の道を歩んでいた。知人が社会福祉法人設立の計画をし、活動していたのだが、資金不足により、志半ばで頓挫しかけていた。

「何とか地元に社会福祉法人を」と、上西さんに声が掛かった。未経験の分野で、不安もあったが、子供から高齢者まで全ての人々が住み慣れた土地で生き生きと暮らせるようにしたいという思いもあり、資金面では義父の支援も受けることになったが、社会福祉法人「北信福祉会」を立ち上げ、高齢者・児童福祉施設を次々に開設し、現在は8つの高齢者・児童福祉施設を運営する。奥様である理事の和子(かずこ)さんと共に、サービスの拡充に尽力しておられる。

複合高齢者施設「ハッピー愛ランド」

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最初に始めたのが、保育園で、奥様や新米の保母さんと共に大変な毎日だったが、手探りながら、「こころ」を大切に、子供たちに愛情を注いで運営してきた。保育園開設の半年後には、特別養護老人ホーム他、複合高齢者施設の「ハッピー愛ランド」を開設した。介護保険制度により、要介護利用者3人に対し、介護職員1名の配置が義務付けられているが、要介護利用者2人に対し、介護職員1名を配置する等、より手厚いサービスの提供に努めてきた。

「ハッピー愛ランド」の名付け親は、英国の社会福祉のように生まれてから亡くなるまで幸せに過ごせる施設になるようにと願い、「福島」と掛けてその名称を提案したそうだ。利用者からも職員からも大変評判がよいそうだが、唯一、施設の利用者が亡くなり、ご家族に連絡する時には少し困るとのことだ。

老いとは、全ての人がいつか直面する問題。身内だけの介護では、家族だからこその難しさもあり、介護疲れが招く悲しい事件も多発している。利用者にとっては自宅で生活を続けられるのが一番だが、それが難しい場合に入所できる施設や、ご家族の負担を軽減し、利用者の方々がご家族以外の人々と交流の機会を持つためにはデイサービスセンターも必要。このような施設は地域になくてはならないという思いで運営してこられた。

日本が高齢化社会となり、高齢者福祉の需要はますます高まっており、2012年には「ハッピー愛ランドほばら」を開設して、施設の拡充を進めているが、人材の確保と介護の担い手の育成が急務で、独自の介護マニュアルを作成、人材研修・育成システムを確立し、来るべき時のために介護体制をさらに整えられるよう取り組んでおられる。

まず、保育園から見学させて頂いた。昨年の福島原発事故で、園庭には文科省が設置したという大きな線量計がある。福島県の全ての学校、幼稚園、保育園に設置され、各所のデータが東京に送られるしくみで、仕様書通りの機能が果たせていないとして、業者には代金は未だに支払われていないそうだ。ちなみに、訪問時の線量は何の問題もないレベルとのこと。

原発事故の影響と除染の現状

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また、行政が除染ということで、園庭他、保育園の施設の周りの表土を表面から5cm取除いたそうだが、その汚染された土がどう処理されたかご存知だろうか?

処分する場所がないので、全てその学校や保育園の校庭や園庭に穴を掘って埋めているそうである。

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園長先生が保育園内をご案内下さった。園児たちは昼食後のお昼寝中だったので、職員の皆さんは起こさないように小さな声で、「こんにちは。」と、笑顔で挨拶して下さる。0歳児から預かっておられて、自分の子供でも手のかかる大変な時期なのに、お仕事とはいえ、頭の下がる思いがした。給食の食材も行政が全て放射線検査をしているとのことだ。

当然のことなのだろうが、園児のお母さん方は皆さん線量計で、通園路はもちろん、保育園のあらゆる施設、場所、通路をチェックしておられるそうで、神経質にならざるを得ないのが現状だ。園庭のプランターには、茄子やキュウリの野菜類が育てられていた。

「もちろん収穫できても、親御さんたちが心配されるので、園児たちには食べさせずに、私たちで頂きます。園児たちには野菜の成長を見てもらうだけですね。保育園の傍に樹齢100年を超える大きな木々があるのですが、枝葉が生い茂っているそういう木々は線量が高く、排除して欲しいとおっしゃる親御さんもおられます。命あるものを切り倒すことの是非、後の処分をどうするかの問題もあり、対応には苦慮しています。」と、上西さんと園長先生。

子供たちは野外で遊ぶ時間も制限されていて、園児たちだけでなく、地域の子供たちにも安心してのびのびと遊んでもらえる施設を造ろうと、保育園の裏に敷地が確保できたので、体育館の建設を申請しても許可が下りない。

何か権限を持つと勘違いが始まる

「こちらは地域の子供たちのことを思って、自前で費用を準備し、補助金等のお願いもしないのですが、何か権限を持つと勘違いが始まるのですね。私どもが、この子供や高齢者の福祉事業を始めてから、そんなことの連続ですが、何とか別の用途で許可が下りました。人間、善い行いをしていれば、こちらの想いを理解して、応援して下さる人も現れて、最悪のことが最善になることもよくありますよ。」と、上西さん。

許可が下りると、今度は同業の他施設から、中止してくれと言って来た。震災後、福島県全体で6万人、福島市でも3万人が県外避をしているそうで、特に子供の人口が減っていて、どこも経営が厳しいらしい。

「震災の時、ウチは保母さんたちが一丸になって、園児全員を安全な場所に集めて、ありったけの毛布を被せて、子供たちを必死で守ったのですが、その対応が評価されたのか、おかげさまで震災後も園児数が増えているので、やっかみもあるのでしょうね。特に小さなお子さんをお持ちの親御さんはいくら放射線量には問題がないと言われてもご心配なもので、県外に避難した子供たちも多いのです。今は、そんな了見の狭い話をしないで、福島に残って毎日を健気に生活している地域の子供たちのことを先に考えて欲しいですね。」と、上西さん。

園庭を挟んで高齢者施設も併設されている。開設当時は、福島県初の試みだったそうだ。高齢者施設の食堂から子供たちが元気に遊んでいる様子が眺められ、週に1回、園児との交流会も開かれて、子供たちは楽しみにし、高齢者施設の利用者には大変喜ばれていたそうだが、最近では、園児の若いお母さん方からは、交流会は中止して欲しいという要望が強く、「これも時代の流れなのでしょうが、少し寂しいですね。」とおっしゃる。

次に高齢者施設内をご案内頂いた。

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とにかく廊下が広くて、明るい。緑が多く、あちらこちらから植栽が見える。廊下が狭いと事故の元になるので、収容人数を減らしてでも施設全体をできるだけゆったりと造ったそうだ。こちらの職員の皆さんも私たちを見かけると、「こんにちは。」と元気よく挨拶される。上西さんご夫婦も利用者の皆さんにも、職員の皆さんにもひとりひとりに声を掛けておられる。

高齢者施設特有の臭いが全くしないのは?

「常に清掃をして、施設を清潔に保つよう心掛けているのは勿論ですが、利用者の皆さんには、食べ過ぎや栄養過多にならないよう献立を工夫したり、トイレに行かないように水分を控えるのではなく、多めに水分を取って頂くよう心掛け、トイレを意識して頂くようにしています。トイレをご利用頂くことは、認知症やじょく瘡(床ずれ)の改善にもつながります。」と、和子さん。

ロビー近くの結構目立つ一角に仏壇を設置した仏間がある理由

「利用者の皆さんがこの施設を出られる時というのは、お察しの通りですが、私どもでは、最期の瞬間まで利用者とご家族に寄り添う看取りケアも行なっています。人生の大先輩である利用者の皆さんの最期にどう向き合うべきか、私たちも職員ひとりひとりもいつも真摯に考えて、介護に取り組んでいます。亡くなられた利用者と親しかった利用者もおられるでしょう。ご家族、利用者、職員も含めて、いつでもどなたでもその方を偲んで手を合わせられるようにできるだけオープンにしました。」と、和子さん。

需要に対して供給が全く足りない状態

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「こちらが増築した新しい施設になりますが、最近では利用者のプライバシーを重視して、個室を提供するよう行政から指導されています。その分、利用者の負担が増えるので難しい問題ですね。私どもは福島県内では最大規模の施設となりましたが、ご利用は2年待ちで、需要に対して供給が全く足りない状態です。今後、高齢化が進めばもっと不足するでしょう。また、この福島の将来を背負って立つのは地域の子供たちです。この国の財政が厳しい現状では、地域住民がどう生きて、どう安全を確保していくか、微力ながら、地域の私どものような民間レベルでもお手伝いをしていかねばならないと思っています。」と、上西さん。

上西さんご夫妻にコレゾ賞の趣旨をご説明し、ご夫婦での受賞をお願いしたところ、快く、了承して下さった。

この世に生を受けると、その寿命の長さは異なっても、誰もが平等に死を迎える。自分はどのように生きてどう最期を迎えるかを改めて考えてしまった。

また、東日本大震災と福島原発事故後、初めて福島を訪れたのだが、震災と原発事故の爪痕は大きく、一年以上が経過しても、復興の途にもついていない現状を見せて頂き、教えて頂いた。

福島で「こころ」と「いのち」を大切にする事業を続けておられるからこその貴重なお話を伺うことができた。

COREZOコレゾ「こころといのちを大切にする、奉仕こそ地域社会福祉」である。

COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2012.11.02.

最終取材;2012.06.

最終更新;2015.03.04.

文責;平野 龍平

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