由井 啓之(よしい ひろゆき)さん/タイムドメイン

COREZOコレゾ「従来の常識こそ非常識、音源をただ忠実に、一切の無駄を除くと、奏者まで見えてくるようなスマート・オーディオ」賞

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由井 啓之(よしい ひろゆき)さん

プロフィール

京都府相楽郡精華町

株式会社タイムドメイン 代表取締役社長

ジャンル

 

工業製品

オーディオ製品

研究・開発

タイムドメイン理論

経歴・実績

1936年 奈良県生まれ

1995年 電気通信大学卒業後、電電公社を経て、オンキョー(株)に入社。研究員に。

在職中に、従来のフレケンシードメイン(周波数帯域)の技術理論が周波数特性や歪み特性を基にしているのに対し、

時間を中心に考え、音を忠実にリスナーに伝えようとするタイムドメイン(時間領域)理論を構築。

1984年 この理論を応用し、大ヒットスピーカー「GS-1」を開発。一躍、その名を知られるようになる。

だが、その後はスピーカー開発から離れていた。

オンキョーの経営再建に伴い、オーディオ研究所の所長に就任。

1996年 当時の(株)アスキー社長だった西氏の支援により、(株)アスキー総合研究所(現アスキー未来研究所)のオーディオ・ラボ所長就任。

1997年 (株)タイムドメインを設立し、代表取締役に就任。

2000年 タイムドメイン理論に基づいた「Yoshii9」を商品化、発売し、世界を驚かせた。

2001年 「TIMEDOMAIN-mini」発売

2005年 「TIMEDOMAIN-light」発売

受賞者のご紹介

タイムドメインって何?

音楽が好きな方は沢山いらっしゃると思う。自分で楽器を演奏される方もいらっしゃれば、コンサートやライブを聴きに行かれたり、CD等を再生して、楽しんでいる人もいらっしゃるだろう。

本来、「オーディオ(audio)」とは、英語で、「音響機器」の意味だが、日本では、その機器を利用しての録音、再生や蒐集、自作他までを含めた趣味の領域も、オーディオと呼んでいるそうだ。その機器が違うと、同じ音源を再生しても、全く違う音に聴こえたという経験をして、「いい音楽をいい音で聴きたい」と、オーディオにはまってしまった方も多いらしい。

京都・大阪・奈良が接する地域に、行政がベンチャー企業や研究施設を誘致している学術研究都市があり、そこで「タイムドメイン」という、一風変わったスピーカーシステムを開発、販売している企業がある。その代表取締役社長が、由井 啓之(よしい ひろゆき)さんだ。

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PCや携帯音楽プレーヤーにつないで聴くのに、都合のいい「TIMEDOMAIN-mini」や「TIMEDOMAIN-light」は既に購入していて、再生音が非常にクリアなのは知っていたのだが、そのフラッグシップモデルである「Yoshii9」は、高さ1m程の円筒に直径8cmのスピーカーが1個、上向きに付いている煙突のような形をしたスピーカーで、これが2本に亀の甲羅のような形をした手のひらに載る位小さなアンプが付いて、価格は15倍以上の30万円もする。諸事情?により、一般の家電量販店等では、展示、販売されていない。

マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が、驚嘆した⁉︎

マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が、「私がこれ迄にオーディオに費やした数十万ドルは一体何だったのか?」と、驚嘆したという噂で有名になったのは、そのプロトタイプだったそうだが、「本当にそんなに凄いスピーカーなの?」と、ずっと気になっていて、その真偽を確かめて、開発された由井社長の素顔も知りたいと思い、同社を訪れ、試聴させて頂いたのだが、正直、度肝を抜かれた。

普段からよく聴いている音楽の中から、小径スピーカーユニット(8cm)の「 」が苦手そうな曲目を選んで、iPhoneに入れて持参した。「Yoshii9」につなぎながら、「無圧縮で取り込んだiPhoneからはとてもいい音が出ますね。iPhone4は更にいいですよ。」と由井社長。

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小径スピーカーユニットで低音はでるの?

次々に、色々なジャンルの音楽を聴いてみると、コントラバスやエレキベースの重低音、ドラムスやパーカッションのアタック音からフルオーケストラまで見事にいい音で鳴らし切るのである。

「えーっ!?どうしてこんな小さなスピーカーから、こんな重低音やキレの良いシンバルのアタック音が出るのですか?」と尋ねると、

「スピーカーを大きくすれば低音が出るというのは、見た目だけであり、迷信に過ぎません。音の高低は振動板が振動するスピードで、振動板が大きく動く程、大きな音が出ます。その証拠にヘッドホンの小さなユニットでも低音域が再生されるでしょ?ヘッドホンの原理とは少し異なりますが、スピーカーで再生音圧波形を正確に再生するには、口径が小さくて軽いシングルユニットのほうが有利です。従来型のスピーカーのように、ユニット径を大きくすればする程、歪みも大きくなるので、低音域では共振にまぎれて潰れてしまい、半音の高低の区別も聞き分けられなくなります。このスピーカーは、正確なピッチがわかると、最初に評価して、買って下さったのは、ベース奏者の皆さんなんですよ。」

「いい録音の音源ばかりですね。結構大きな音で聴かれるようですが、ご自宅では何ワットのアンプをお使いですか?今の音量でせいぜい0.1Wです。このYoshii9のYA-1エンジン(アンプ)は12W+12Wなので、充分過ぎますね。消費電力も少ないですし、今の時代に合って、エコですよ。」と由井社長。確かにその通りである。

当日、同じ音源を自宅にある1人では持てない重さのアンプと直径38cmの低音域用他、4つのユニットが付いた「タンス」のようなスピーカーで聴いて、耳慣らしをしてから伺ったが、音を大きくしないと鳴らないし(近所迷惑)、由井社長のご説明によると、音を大きくする程、箱他の共振や歪みが増大するそうで、そんなのを聴いていたのかもしれない。

それに、そのタンススピーカーでは、お気に入りの女性歌手の歌声もスピーカー自体からしか聴こえなかったのが、「Yoshii9」では、すぐ目の前で自分の為に歌ってくれているように聴こえ、楽器の左右の位置ばかりか、奥行きまでわかるのである。

スピーカーから出る不要な音とは?

有難いことに、親切丁寧に、噛み砕いてご説明頂いたのだが、ファラデーの法則もフレミングの右手?左手?の法則も忘却の彼方に消え去った由緒正しい文系人間が、理解したところによると、世の中のスピーカーというモノは、総じて、コーン紙のような振動板が動いて音が出ている。必要なのは表側から出ている音だけなのだが、当然、裏側からも音が出ていて、これが逆位相?の音で、この音を消そうとしたり、完全に消せないので、逆に増幅して利用する(箱に入れたり、箱を工夫したり)ために、メーカーや技術者は、苦心しているそうだ。

どうも、この「タイムドメイン」というのは、裏側から出る余計な音(雑音)や、スピーカーボックスが共振して出るその他の雑音を徹底的に排除して、原音だけを忠実に再生する工夫をしているようだ。また、スピーカーの振動板を軽くする(≒口径を小さくする)程、入力信号に対する反応が早くなるが、出力できる音圧は下がるので、聴感上のバランスが取れるギリギリまで、口径を小さくすると、バスドラムのキック音の再生等は、多少、不得手になるようである。

「タイムドメイン理論に基づいて初めて開発した『ONKYO GS-1』なら、そういった音も正確に再生できるのですが、当時で、1セット200万(アンプ別)もしましたし、今となっては、設計できる技術者も、製造できる工場も、パーツもなくなって、作ることができません。また、鳴らすのにも非常に神経質な製品で、アンプを始め、セッティングにも技術と大変な手間が必要で、現実的ではないのです。『Yoshii9』もパラレルで何本かつなげば、音圧が上がるので、問題なく再生できるのですが、あくまでも、一般家庭で、普通に使って頂いて、満足頂けるレベルを目標に開発しました。」

確かに、一般家庭で、コンサートホールやライブ会場のような大音量を出したり、生のドラムスを叩けば、近所から苦情が殺到するのは間違いないし、タイムドメインは小難しいセッティングなど不要で、ポンと置いて、iPhone等をつないで、電源を入れるだけで、気軽に音源そのままの音楽を楽しめる。

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原音に忠実な音を突き詰めると…

「Yoshii9」は、スピーカーユニットから生え出しのコードが付いているだけで、他の電気回路は一切付いていない。ユニットは筒が共振しないようゲルを挟んで取り付けられている。その不思議な形にも意味があり、筒はスピーカーユニット背面から出る不要な音を消音する自動車のマフラーの役目をしていて、磁気回路も振動しないよう金属製のシャフトが取り付けられているそうだ。

「アンプにも原音信号情報の歪み、拡散、喪失を防ぐ工夫を凝らし、原音に忠実な音を突き詰めると、結果的に非常にシンプルな構成、設計となりました。それでも、材料、部品を吟味し、加工技術、精度を高めると、コストが上がってしまったのですが、価格はできるだけ押さえました。」とおっしゃる。

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エノキダケマイク

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「これ、ご存知ですか?」と、テーブルの上の由井社長が「エノキダケマイク」と呼んでいる、どこにでも売っているピンコードに豆粒大のマイクらしきものをビニールテープで取り付けたモノを手に取り、「このマイクは日本橋のパーツ屋で売っている1個50円ほどの代物ですが、何万もする高級マイクよりずっといい音で録音できます。作り方をお教えした有名な音楽プロデューサーが、このマイクで録音した音源を送って下さったので聴いてみますか?」と、その音を聴かせて下さった。

何と、すぐそこで誰かが生ギターを弾いているようなリアルな音が流れて来て、5~6対設置してあったスピーカーセットのどれから鳴っているかわからないのである。尋ねると鳴っているのは、卵形をした最も小型の「TIMEDOMAIN-light」だった。

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「えーっ!?これがあのの音ですか?」と尋ねると、

「ええ、タイムドメインは、いい録音のソースも、悪い録音のソースもそのまま再生します。高いマイクや機材で録音した音源を高いアンプとスピーカーで再生すれば、いい音が出るというのも何の根拠もない、全くの迷信です。」

「元々の金型がパソコンの付属品である『TIMEDOMAIN-mini』なんかに携帯電話つないだだけで、こんないい音が出るものですから、ビックリする人と、ご自身の持っているオーディオセットと比較してガッカリする人と、大体2通りですね。音楽やオーディオに興味の無かった方々は、素直にいい音だとおっしゃって下さいますよ。」

実際にその日、ピアノの勉強用に音のいいスピーカーを探しておられる親子が『TIMEDOMAIN-mini』の試聴に来訪されて、小学生の女の子が、「その煙突のようなのも聴きたい」と、言い出し、youtubeの世界的に有名なピアニストの演奏を聴いて、「うわーっ、そこで弾いてるみたい。こっちの方がいい。」と、お母さんを困らせていた。

「アナログレコードも、この1万円もしないプレーヤーでいい音で聴けますよ。」と聴かせて下さったが、レコードに付きもののあのパチパチ音がせず、久しぶりに聴いたレコードもなかなかいい音である。

「ねっ、スクラッチノイズもあまり気にならないでしょ?盤をクリーニングしただけですよ。私も何百万もするプレーヤーも持っていましたが、ダメなところと潰そうとして、色々やっちゃうから、更に原音とは違う音になるんですね。スピーカーケーブルも1m当たり何万もする太いのが売っていますけど、細くて柔らかい方が電気信号にストレスがかからなくていいですよ。スピーカーが上を向いていると指向性がどうのと言う人がいますけれど、私があっち向いて喋っても、私のいる方から声が聴こえるでしょ?全部迷信ですよ。従来型とは正反対のことを言っているように聞こえますが、私から言わせると、従来型の理論の方が、間違っているだけですけどね。」

「このスピーカーは、天井や周囲の壁等の影響を受けない野外で聞くと一番いい音で聴けるので、実際にやっている人がいますよ。」と、おっしゃるので、「30万もするスピーカーに雨でも当たったら台無しじゃないですか?」と云うと、「おもしろい実験をしてみましょうか。」と、サランラップを取り出し、適当な大きさに切り離し、音が鳴っているスピーカーに被せて輪ゴムで止められたのだが、音は大きく変化しなかった。

「不思議でしょ。外で聴く時はサランラップを忘れずにですね。」

いい音楽をいい音で聴くこと

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同じアーティストのアルバムの同じ曲でも再生装置、特にスピーカーによって違って聴こえるは誰にでもわかる。しかし、スピーカーの見た目、数や大きさ、アンプの出力が何百Wとか重さ、メーカーやブランドは、「いい音楽をいい音で聴くこと」とは何の関係もなく、腹に響く重低音とか、きらびやかな超高音とかは原音とは関係のない、後から勝手にデッチ上げられたモノだったのである。

震災、原発事故以来、お金で買えるモノの豊かさや大量生産品を大量消費して、モノを次々に買い替えることから、ライフスタイルを見直す時期に来ている。

農業、漁業その他生産業に携わっている人々と実際に交流して、無農薬、無化学肥料、有機栽培等にこだわった生産物は、採れたてをそのまま生で食べさせて頂くと、実に素材の味が濃いことがわかる。しみじみと美味しく、作り手の心まで伝わってきて、スーパーに並んでいるパック詰めのモノとは別物のように感じる。

素材自体がいいものは、素材そのものの味を楽しむというか、できるだけシンプルに、素材を生かす味付けや調理をしないと台無しである。音も「原音に忠実に」を極めて、余計なものを取り払って行くと、シンプルな形に行き着くようである。

このタイムドメインは、自然音の再生では、原音忠実再生という持ち前の実力をさらに発揮する。以前、何度か訪れたことのある屋久島の白谷雲水峡の自然音を録音したCDを聴いたのだが、実際にそこにいるように感じる程の臨場感なのである。ヒーリングやセラピーの施設で重宝されているというのがよくわかる。

血流がサラサラになる音を出すスピーカーとは?

実際に、音楽が人間の健康に与える影響?を研究しておられる医学博士がおられて、同じ音楽でも、再生する機器によって、異なる結果が出るのではないかという仮説を立て、実証実験をされたそうだ。結果は、タイムドメインのスピーカーで聴くと、血流がサラサラになり、低音と高音を機械的に強調したスピーカーでは、ドロドロになったそうだ。あまりに違いすぎるので、被験者を替えて、何度も実験したそうだが、同じ結果になったという。その先生の考察では、人間は、自然に近い音を聴くと心地よく聴こえ、不自然な音を聴くとストレスを感じるのではないかとのことだ。

「Yoshii9」は、録音の悪い音源を加工して、派手で聴き映えするような音にしては再生できないが、いい音楽の素材(=音源)に関しては、作り手の想いをそのままの形でリスナーに伝えてくれる、他に比類のない「AUDIO REALIZER SYSTEM(パッケージに明記してある)」なのである。

由井社長は、研究職になられて、40代にストレスで長期入院して、職場復帰すると、席が無くなっていたそうだ。また、会社の経営危機でリストラにさらされても、その都度、当時の研究の成果(商品)が認められて、窮地を救われてきたとのこと。

支援を受けて独立した後も、運転資金が不足した時には、試作機を聴いた銀行の支店長が融資部長、理事長を連れてやって来て、売上「0」の状態で無担保融資をしてくれたそうだ。

その融資も底をつき、いよいよ困窮しても、気を紛らわすためにさらに研究に没頭し、ついに倒れて熱でうなされている時に、「Yoshii9」のアイデアが思い浮かんだという。急いで東急ハンズで材料を買い込み、試作機を完成させて鳴らしてみると、ご自身もビックリするような音が出た。

「なんてすごいモノを作ってしまったんだ。どうしよう。」と思ったそうだ。

以前、研究職の方々から、「発明や発見のヒラメキは、日々の地道な研究からしか生まれてこない」と伺ったことがある。どんな窮地に追い込まれても、信念を持って研究に打ち込んで来られたからこそ、新しい理論を発見、構築し、現実に実を結んだのだろう。

真に正しいこと、新しいものを見つけるには?

「固定観念や既成概念にとらわれていると、真に正しいこと、新しいものは見えてきません。」と、由井社長。

自らの名前を冠した「Yoshii9」は、これまでのご自身の研究成果、経験、知識、知恵の全てを注ぎ込んだ、由井社長の人生そのものであリ、現状、これ以上の製品は作れないと、後継機の開発予定はないそうだ。2000年の発売以来、モデルチェンジはない(後に、姉妹機のTIMEDOMEIN11が発売された)。

Smart Audio

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「Yoshii9」の成功の後、音楽やオーディオに縁が無かった人たちにも感動を提供して、新しい市場を創造したいと手頃な「TIMEDOMAIN-mini」、「TIMEDOMAIN-light」も開発、発売された。

十数年前に、Appleに呼ばれたことがあるそうで、PCであっても音質にも徹底的にこだわり抜く企業姿勢が、現在の製品群と成功に繋がっていて、「イノベーションの力で社会を変えたい」という強い想いに、感銘を受けたとおっしゃる。

由井社長は、1人でも多くの人と音楽を聴く感動を共有したいと願い、最近では、「Smart Audio」の考えを提唱しておられる。従来のオーディオマニア的な発想はやめて、「タイムドメイン」を音のいいiPhone等につなぐだけで、「もっと手軽に、いい音楽をスマートに楽しもう」ということだそうだ。

技術の話になると、技術者魂に火が点いて、時間を忘れるぐらいに熱弁を振われるが、普段は、スゴイ商品の生みの親なのに、何の奢りも気負いもなく、飄々としておられて、ホンマ、話し好きの気さくでおもろいおっちゃん(失礼)だ。実際、人柄を慕って多くの方々が来訪される。

ある日の由井社長のツイッター

以下、ある日の由井社長のツイッター、

「昨日の試聴客、多士再才で、夜10時まで何も食べないで話が弾んだ。大変ショックだったひとも居る。驚く人、宗旨替えをする人、目から鱗の人。 侃々諤々で楽しい。心身活性向上。」

昔から、オーディオの売り場に女性の姿を見かけることはなく、最近では若い男性の姿も見かけなくなった。したり顔のおっさんが薄暗い部屋で悦に入って聴いているという従来型の趣味嗜好、自己満足の世界のイメージを一新して、婦女子の皆さんとも楽しく語り合えるような「スマート・オーディオ」を普及して頂きたい。

そんな期待も込めて、

COREZOコレゾ「従来の常識こそ非常識、音源をただ忠実に、一切の無駄を除くと、奏者まで見えてくるようなスマート・オーディオ、タイムドメイン 」 である。

 

追記1 「Yoshii9」試聴記

百の能書きより、一聴して頂くのが一番だと思うが、その再生音に感動し、早速、購入して聴いた「Yoshii9」の個人的な感想を記させて頂くので、ご興味のある方はお読み頂きたい。

ごく一般的な木造家屋で、間口6.3m、奥行き3.6m〜7.5mのL字型の部屋の間口側中央のTVの両脇に約1.5m離して設置し、appleTVとAirMac Expressをつなぎ、ituneの共有機能を使って、PCに取り込んだ音楽を聴いている。

A Tribute to Nicolette Larson: Lotta Love Concert

演奏も録音も素晴らしいと思う、「A Tribute to Nicolette Larson: Lotta Love Concert」(現在、アマゾンでも廃盤のようだ)に収録されているCS&Nの「Black Bird」では、2本のYoshii9の煙突の真ん中にStillsのギターとボーカル、左の煙突の外側にCrosbyのボーカル、右の煙突の外側にNashのボーカルの音像が浮かび上がり、目を閉じることもなく、2本の煙突の存在が消えてしまう。

他の従来型のスピーカーでもセッティングが上手く行くと、2つのスピーカーの外側に音が広がるような聴こえ方がすることがあるが、それらとは全く次元が違う。

このアルバムを聴き進めていくと、どの曲でもステージの様子が浮かんで来て、実に素晴らしい。最後は30名前後の出演者全員でCarol Kingと「You’ve got a friend」を歌うのだが、楽器の位置は勿論、誰と誰がどの位置で同じマイクで歌っているのかステージの様子がありありと浮かんで来るのである。慌ててCDを探して来て、ジャケットの写真を見ると、浮かび上がっている音像の通りのステージ配置で鳥肌が立った。そして部屋中が観客の拍手と歓声で溢れたのである。

もうこれはただ事ではない。タイムドメイン社の試聴ルームでの驚きの体験を早くも超えてしまった。

Ride Again;The Poll Winners

何十年も前からのJazzの愛聴盤であるThe Poll Winnersの「Ride Again」では、

中央にギター、左にベース、左にドラムスの音像が鮮明に浮かび上がった。デジタルリマスターしているとは言え、約50年前の音源が瑞々しく甦ったのである(古い録音には良い音源が沢山あるとの由井社長論の実証)。ベースやバスドラがスピーカーの外側から聴こえるなんて従来型のスピーカーでは考えられないことで、これも初めての体験である。

In the Court of the Crimson King;King Crimson

プログレッシブ・ロックの歴史的名盤といわれるKing Crimson の「In the Court of the Crimson King」リマスター盤を聴いてみた。

「なんじゃ!こりゃぁぁぁ〜!?」と、ビックリするような広大な音の空間が出現し、音が溢れ出して来た。前後左右あらゆる方向から、天井からも音が降って来たのである。同封されている5.1chDVDオーディオなんて比べ物にならないスゴさである。2本の煙突の存在なんて全く意識から無くなる。

圧縮したオリジナル版も聴いてみたが、大きな遜色もなく、40年以上前にこんなに凝った録音で、とんでもないアルバムを作っていたことに驚嘆した。これまで、何百回と聴いて来たが、今までの再生装置では、アルバムに入っている全ての音と制作意図まで、そのまま忠実に再生できなかったのだろう(以前、かの有名なパラ◯ンでも聴いている)。

これを聴くだけで、「Yoshii9」を購入してもおつりが来るくらいの値打ちがあると思う。感激して、他のKing CrimsonやPink Floyd等のアルバムを次々に聴いた。これまでしたことの無い音体験をし、どれも凝りに凝った録音、アルバムであったことを再認識、いや、初めて知った。なかでも「Dark Side of the Moon」や「Pulse」等はブラインドで試聴をすれば、2本の煙突から出ている音だとは誰も思わないだろう。

The Beatles

ネット上ではタイムドメインで再生しても大して変わらないという評価もされているBeatlesも聴いてみた。

モノラルは忠実に再生されるだけなので大した感動は無いが、ステレオリマスター版は立体的に音像が浮かび上がって来る。レコーディング時にステレオを意識し出した時期以降は、非常に凝った音作りがされていて、個人的な感想だが、特に「White album」以降は「Yoshii9」で聴くと、如何にスゴいかがよくわかる。

「Revolution No.9」なんてこれまで最後まで聴く気にもならなかったが、色々な音が、頭上をぐるぐると廻り、四方八方に駆け巡るまさにサウンドコラージュである。当時としては画期的で実験的な試みが行なわれていたのだ。今更ながら感心して、最後まで聴いた。フツーの再生装置で聴いても、何やらフニャフニャと音が鳴っているだけで、訳がわからないのは仕方無いだろう。

「Let it be」は公式に発売されているだけでも確か6種類のバージョンがあるが、「Yoshii9」で聴き比べると、凝った音づくりとともに制作者の意図まで感じ取ることができる。

Phil Spectorがミックス、アレンジ、プロデュースしたバージョンはオーケストラが余計だとか陰口を叩かれているが、「Yoshii9」で聴くとメンバーの演奏のバックにオケが広がり、これはこれで良いのがわかる。

Phil Spectorの音づくりは、「wall sound」と呼ばれていて、こもった音がするという印象があったが、それはオケも他の楽器も一緒に聴こえてしまっていたからで、他の作品も「Yoshii9」で聴いてみると、驚く程、緻密に計算されていることがよくわかる。

とりわけ興奮したのが、これまで、お気に入りの曲でもなかった「One after 909」だ。公開時に映画を見に行って、「これがあのBeatlesか」と盛り上がった場面が浮かんで来た。

これはその伝説のルーフトップギグが音源になっていると思うが、元の音源のノイズを取除いたりしただけで、音自体には後からほとんど手が加えられていないようだ。オリジナル版よりはるかにクリアになったデジタルリマスター版とNAKEDの違いはジョンのギターの位置で、NAKEDの方がより映画の立ち位置に近い音像である。

どちらも「Yoshii9」が再生するその臨場感、立体感は凄いとしか言いようがなく、左にジョン、その奥にビリープレストン、中央にポール,その後ろにリンゴ、右にジョージがほぼ等身大でライブ演奏しているのである(実際の立ち位置はジョンが中央右、ポールが中央左、再生時の楽器のバランスを考えてリミックスしているのかもしれない)。

「Abbey Road」中のリンゴの唯一のドラムソロも何百回となく聴いてきたが、「Yoshii9」以上にリアルな再生音は聴いたことが無い(本当の生音は聴いたことがないが)。

今まで何を聴いてたんやろ?

この後、試しに他のスピーカーでも聴いてみたが、何とも平板な音にしか感じられず、「今まで何を聴いてたんやろ?」というのが正直な気持ちである。

「Yoshii9」は、「わずか8cmのユニットなので低音の再生が」とか、「音場表現力に優れるが無指向性なので」、「オーケストラには」、「重低音のロックには」とか・・・よくいわれているようである。オーディオマニアでも、「Yoshii9」信奉者でもないが、本当に聴いたことがあるのか?と突っ込みたくなる。

「Yoshii9」はどこに置いても、どこで聴いても同じように聴こえるという話も聞くが、そんな魔法のようなことはない。その他の従来型のスピーカーと比べれば、そういう点でも優れているようだが、色々リスニングポイントを替えて聴いてみた結果、自分が体験したようなリアルな音像を体験できるのはある程度限られたポイントであるようだ。

聴くポジションだけでなく、音源によっては、天井に近い高い位置から聴こえたり、水平から聴こえたり、ステージを見下ろすように聴こえたり、音像を結ぶ位置が異なるようでもある。

あと、由井社長から録音が良くないと伺ったクラッシックのアルバムは、確かに音が煙突の周りに固まり、広がりを感じることはできなかったが、良い録音のものは、ひとつひとつの楽器の位置までわかり、コンサートホールにいるような臨場感なのである。おかげでクラッシックを聴くのが楽しくなった。

タイムドメインで聴くと Keith Jarrett の The Koln Concert の冒頭部分で男女の笑い声が聞こえるという記事もネット上で良く目にするが、そんなのはその辺の安モンのスピーカーでも聞こえる訳で、「Yoshii9」の凄いところは、録音した場所、時間、演奏者の空気感まで再現できるところだ。

古い録音程、ワンポイントのステレオマイクで録っているので、「Yoshii9」との相性が良いのだろう。最近のマルチ録音の場合、収録時に多い時は何10本のマイクで録音をして、後でミキシング処理するが、いくら指向性の良いマイクでも周りの音も拾っているそうで、その影響かもしれない。

TVの音は結構いい 、DVDの映画を見るのも楽しくなる

また、昨今、薄型TVはどんどん安価になっているが、その分、音響装置をコストダウンしているそうで、「TVの音は結構いいですよ。DVDの映画を見るのも楽しくなるので、タイムドメインをつないでみて下さい。サラウンドなんて要りませんよ。」と由井社長に勧められた。実際、良い録音であれば、一番小さな「TIMEDOMAIN-light」でも、もちろんサブウーハのズンドコ音は出ないが、効果音がサラウンド並みに立体的に聴こえるのである。

「Yoshii9」 で、往年のモダン西部劇の名作、「明日に向かって撃て!」のブルーレイ版を観た。ドルビーもサラウンドもなかった時代の作品なので、音声はステレオなのだが、コロラド川の荒野を追手から逃げるシーンでは、馬が駆ける音や風切り音等の効果音が、リアルに立体的に聴こえてくる。試しに手持ちの7.1chのサラウンドシステムに切り替えてみたら、全く臨場感がないのである。他のDVDも再生してみたのだが、ちょっとショックだった。

高価なサラウンドシステムも要らない⁉︎

「Yoshii9」 が2本あれば、それより高価なサラウンドシステムも要らなかったかもしれない。

あまりいい録音ではないと思っていた音源は実はスゴく良かったり、その逆の発見もあって、あっという間に時間が過ぎて行く。その冷めやらん興奮を誰かに伝えたくて、タイムドメイン社に電話をしたら、なんと由井社長がお出になられた。

「いい録音、いい音源を再生すると、Yoshii9はその姿、存在を消して、音像が立体的に広がるようです。音楽アルバムに込められた、真の演奏者や制作者の意図や想いまで聴こえて来るようです。miniもlitghtも従来型と比べると素晴らしいですが、Yoshii9は値段の差などを超越した全く別の次元のスピーカーです。発売された時に買っておけばもっと楽しめたのにと10年余りの年月を損した気分です。こんなにスゴいモノを作って下さって有難うございます。」と、率直な感想と謝意を伝えると、

「そう言って頂くと、私の想いも伝わったようでとても嬉しいです。有難うございます。」と、照れくさそうに応じられた。

後日談、生演奏をiPhoneで録音し、Yoshii9で再生して聴き比べ

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2013年度のCOREZO(コレゾ)賞授賞式では、COREZO(コレゾ)賞受賞者でコントラバス奏者の金岡 秀典(かなおか ひでのり)さんにご協力いただき、演奏して頂いた曲をiPhoneで録音し、すぐにYoshii9で再生して聴き比べをしたところ、その原音再生能力の高さに全員が驚かれた。

残念ながら、前日に交通事故に遭われた由井 啓之(よしい ひろゆき)さんには、ご出席頂けなかった。

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COREZO(コレゾ)賞 事務局

初稿;2012.11.02.

最終取材;2012.09.

編集更新;2015.02.25.

文責;平野龍平

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